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西村陽平[Mixad media, Kiln work]

工芸のアート性、アートの工芸性

 

             廃材にペイント 2016年  

 

 

           トースター 1988年   百葉箱に沿って 1985年

 

 

            朝日新聞 1987年     伝道の書Ⅴ―知識を増す者は憂いを増す

 


 

[論評]

西村陽平は1977年の第4回日本陶芸展(毎日新聞社主催)で外務大臣賞を受賞することで、陶芸界への印象深いデビューを果たしました。
それは金属で作られたものを陶芸用の窯で焼いて作品化したものでした。
陶芸は土を焼いたものという常識からすれば明らかに“陶芸”を逸脱していました。
また当時においては、“陶芸”の領域で土以外のものを焼くような創作はほとんどなく、その意味では衝撃的なデビューであったのです。
とはいえそれが受賞したということは、審査する側もその創作を広い意味での“陶芸”の範疇に入れれられると判断したのでしょう。

しかし西村の作品は、明らかに“陶芸”ではなくて“アート”のジャンルのものとして認められるべきものです。
と言いながらも西村本人は、自分の作品がアートとして見られるか陶芸として見られるかということにあまりこだわってはないようです。
だからでデビュー後も陶芸分野での展覧会や催事にも積極的に参加してきてますし、現代アート分野の展覧会にも作品を出品してきました。
西村の作品がどこに所属するか(そのことに西村自身はたぶん興味を持っていないと思いますが)について敢えて検討を試みるとすれば、
ここでは“アートと工芸のボーダーライン上に”としておくことにしましょう。

手法としての焼成の意味は、陶芸においては一般的には土を焼き固めることであり、また釉薬を発色させることですが、
西村においては、焼き固めるのではなくて“灰塵に帰す”という特徴を強く出しています。
しかしそれだけではなく、“アートと工芸のボーダーライン上に”在るために、他方で土を焼き固めるという意味性に拠っている創作もあります。
雑誌や書籍を焼いたものや、木を焼いた作品がそうです。

雑誌や書籍では、その素材である紙を1枚1枚、泥状にしたものものを塗っていくという作業をほどこしたものがあります。
木を焼く場合は、木を粘土で覆って焼くと、粘土は焼き固まり、中の木は炭化して作品の体裁を保つのです。

いずれにしても、“焼く”ということに西村の創作の核心があります。
それは“陶芸”的なメチエとして利用することで“物質の変容”の痕跡をひとつの形にして提示するわけです。
しかし“灰塵に帰”していく方向での創作もあり、そこでは「空の空、いっさいは空である」という思想を表現するものとして受け止められます。

「空の空、いっさいは空である」というフレーズは旧約聖書中の『伝道の書』から引用されたものです。
栄華を極めたイスラエルの王が、それでも地上の繁栄は所詮空しいものである、といった教訓を謳った詩の一節ですが、
しかし決して現世の否定を謳うものではなくて、むしろ「欲望に捉われることなく、慎ましやかに生きよ」ということを訴えたものです。
このテーマに即した西村の作品は、物質に絡まった人間の欲望を焼尽した後の晴れやかな気分といったものが実感されます。

“焼く”ことの科学的な意味は酸化作用ということで、窯で焼くのは急激な酸化作用を人為的に起こすためですが、常温での酸化作用という現象もあります。
物質の経年変化という現象も酸化作用によるものですから、古びたものや朽ちていくものを材料に使った造詣作品にも、西村のコンセプトは通じていると言えます。
すべての創作の根底にあるものは「移ろい」ということであり、万象の移ろうことの中に生命の真実を見ていこうというのが西村作品の基本的なテーマです。

 


 

[プロフィール]

1947年  京都府生まれ

1973年  東京教育大学教育学部芸術学科彫塑専攻卒業

1974年  千葉県立千葉盲学校 教諭(1998年まで)第4回日本陶芸展(毎日新聞社主催)で外務大臣賞受賞

以後、個展、グループ展多数。

2012年  「彫刻を聞き、土を語らせる 西村陽平展」 愛知陶磁資料館

 

〔海外での展覧会〕

  • TOJI, Avant-garde et tradition de la ceramique Japonaise (フランス国立陶磁器美術館/セーブル・フランス)
  • 個展(ケビン・モリスギャラリー/ニューヨーク

個展(CCCD Gallery/香港)

  •   個展(Neuberg Art Space/香港)

2012年  個展 「Apo-Calypse, Beard silverware factry」(クラレンス・スイス)

2013年  個展(ケビン・モリスギャラリー/ニューヨーク

個展(CCCD Gallery/香港)

 

〔パブリック・コレクション〕
滋賀県立陶芸の森美術館、高松市美術館 滋賀県立近代美術館(「時間と記憶」1996制作)、東京都美術館、山口県立美術館、呉市美術館、パリ装飾美術館、東京国立近代美術館 エバーソン美術館、和歌山県立近代美術館、ビクトリア&アルバート美術館 愛知県立美術館、国立国際美術館