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栃木美保[ミクスト・メディア、インスタレーション]

[人は日々]

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インスタレーションの方法で、五感の開放を促していく創作活動を展開しています。
今回は、東京都練馬区にあるギャラリー「水・土」・木」(みずとき)で今年の秋に開催された個展「舫(もやい)-あわいの風景-栃木美保展」を紹介します。

 

ギャラリーの中央の床に乾燥したハスの葉が数枚重ねられ、天井のあたりには十数本の和紙製の飾り紐が垂れ下がって、その中から一本の糸が地上のハス葉のまで届いて、天の滴が降りてくるのを表していました。スペースの入口から真向かいの壁面にはハス池の中を遊覧したときの映像が壁いっぱいに映し出され、ハスの林の中を分け入っていく臨場感が楽しめました。ハスの林の中を分け入っていくと同時に、ハスの群れがこちらの意識の中に流れ込んでくるような、主客が溶け合う幻覚も味わえる映像です(撮影者・安藤順健)。

[左]床上にはハスの葉4枚を乾燥させて積み重ねている。

[中]栃木さんはアロマテラピーのインストラクターの資格も持っていて、植物の香りを塩に封じ込める「塩香」というフレグランス・オブジェ(右の写真)も制作している。

[右]左から蓮花香、蓮花雄蕊香、蓮葉茎香  蓋を開けて嗅ぐとよい香りがします。

 

 

 

和室スペースでは、床の間の壁面に青く着色した板の組み物が掛けられているが、澪標(みおづくし)を表して、舫う舟や来場者に、道しるべのような方向性を感じ取ってもらうことを意図したとのこと。床には手の入っていない舟が数層並べられ、来場者の思いを紙であ丸めたり、折ったりしたものが並べられている。

 

 

 

参加者から寄せられた二四艘の舟は、和室の中央を取り囲むように展示されました。栃木さんはこれを「無意識の集い」と呼んでいます。

 


 

[プロフィール]

1947年  栃木県足利市生まれ

1969年  共立女子大学造形芸術コース卒業

1996年  「生まれ来る者へのメッセージ」展出品(東京・スペースかたち 企画・笹山央)

1999‐2008年 アートキャンプ「木術界」参加(佐野)

2013年  「みる、ふれる、きくアート」展(栃木県立美術館)

2014‐15年  「スサノヲの到来」展出品(足利市立美術館ほか)

1999年より一年おきに個展開催

 


 

[論評]冊子「人は日々」No.02より)

栃木さんの創作世界を構成する要素を普通名詞で挙げていくと、まず素材としては、糸、布、和紙、水、植物の葉・種・花・香りなど、モチーフには、星、月、天、雨、波、光、舟、抽象名詞で表現される事柄には、祈り、いのち、言葉、意識、無意識、交感(照応)、といった項目があります。通常ならば、作品論を語ろうとするならばそのうちのどれか一、二のものにターゲットを定めて作り手の作品世界に切り込んでいくというような方法がとれるのですが、栃木さんの場合は、その方法が通用しない。なぜかというと、彼女の創作世界においては一つ一つの素材、モチーフ、観念がそれ自身のアイデンティティ(自己同一性)を確保しているというのではなくて、相互浸透的な関係性の上に成り立とうとしているからなのです。

たとえば、「星」というモチーフにスポットを当てるとすると、そこには光、水、和紙、香り、祈りといった事象が入り組んできていて、それらとの浸透的関係の中で「星」が語られているからです。そして光、水、和紙、香り、祈りといった事象の各々がまた、それぞれに他の諸事象との複合的な浸透関係の中で語られるものであるから、一つの事象についてそのアイデンティティ(自己同一性)を信頼した語り口をとるということがまず不可能であると感じられてくるのです。