WEB版『かたち』 since1979

KATACHI BOOKSメールマガジン4

第4号[2024年8月16日発行]
飯島直樹作品集『溶ける機能――飯島直樹のデザイン手法』の感想を3人の方から寄せていただきました。
今号はその特集企画といたします。

 

目次
【TOPIC Ⅰ】特集 『溶ける機能――飯島直樹のデザイン手法』感想文
     デザインは「人を、人の心を動かす力」 濱野裕司
     素材の力を浮かび上がらせ、機能を潜ませる表現 東 潤一郎
     飯島さんは時代の先を行くデザイナー  Yuki 
【TOPIC Ⅱ】よもやま話
     ブレイキンと「溶ける機能」——――かたちブックス編集部
【TOPIC Ⅲ】海野次郎さん(水墨作家)のドイツ滞在報告
       Youtubeで公開中
【TOPIC Ⅳ】悦ばしきコトノハ
 

 


【TOPIC Ⅰ】
特集
『溶ける機能――飯島直樹のデザイン手法』感想文  
◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇
デザインは「人を、人の心を動かす力」
濱野裕司 [株式会社 竹中工務店 執行役員]
 圧倒的な作品の写真と、奥の深いインタビュー形式による解説。飯島氏の足跡を通じて、インテリアデザイン界の歴史や思想も学べる貴重な本となっている。
 シリーズ化されたここ十数年の作品群からは、文字からではなく視覚的に、コンセプトやアイコン、ブランディングの重要性を実感することができ、機能と形から生まれるいくつもの貴重なメッセージを感じた。現在の実社会では建築作品を創る上で分業化、専業化が進む一方、建築とインテリアデザインの領域が曖昧となりそれを明確に分け隔てる理由は無くなっている。その中にあってもなお、インテリアデザインを現象的、溶ける形式として提示する本書。
 自身の想いを実作品として生み出し、実現させるために一番に必要なのはデザイン力ではない。当然の事ながら、まずクライアントがいて認められること。次に社会的なニーズを含めた情報、そして何よりも熱意。デザイン力でなんとかしようというのは、崇高ではあるが、ともすれば危険なこと。厳しい現実に揉まれれば自身のデザインはやがてすり切れてしまう。実社会での仕事は、それまでデザイナー自身が抱えていた不安や苦悩が顕在化する残酷な場でもある。
 その中でサラリと物や素材や環境を通じ「新しい価値」を提案し、可能な限り「最善を尽くす」という高い志と共に、「建築主の想い」の実現のためにも、デザインが持つ「人を、人の心を動かす力」を氏の作品から感じた。
 さらにインテリアデザイン界を牽引し、作品を残しながら教鞭にも立っていた飯島氏の想いが詰まっている本書を読み解くにつれ、教育というのは本当に重要なことと感じた。自らを支えかたち創ってくれた原風景、良い教えを受けた人や先生その環境に直接恩返しすることは難しいが、唯一できることは同じようなことを次の世代にするために、自身が良い作品を生み出しその想いを残すこと。それがその世界のトップランナーの社会的使命だとするならば、読み手のジャンルや年齢を問わず本書が果たす役割はとても大きいと感じた。

 


素材の力を浮かび上がらせ、機能を潜ませる表現
東 潤一郎 [インテリアデザイナー]
 『Melting Function 溶ける機能』では、「機能は空間の中の『動くこと』を意味し、その『動くこと』が空間の中で溶け込んで生成される形がインテリアである」という飯島直樹さんのデザイン手法が、その作品を通じて語られています。
 掲載されている作品すべてにおいて、機能が溶け込み削ぎ落とされた表現は、まさに「用の美」を感じさせます。また、飯島さんのアイデンティティが作品に「溶ける」=溶解しているように感じられます。意匠性や色彩さえも削ぎ落とされ、素材の力を浮かび上がらせ、機能を潜ませる表現は、飯島さんという「署名」さえも溶け込んでしまっていますが、そこには高質な創作の意思を強く感じます。
 「溶ける・溶解する」という言葉は、優れた表現者がしばしば口にする記憶があります。創作に没入し、ある境地に達すると、「これは私の描いたものではない」「私の演奏ではない」「物語の人物がこう書けと迫ってくる」「自分自身の力ではなく、大いなるつながりの中にやらされた」という感覚を持つと言います。デザインという人為から生み出される創作を、極限まで極めると、人為の自我を超えた大我に達するということなのでしょうか。その大局観のようなものをそのデザインの中に感じました。
 飯島さんが本書のインタビューで語られているように、1970年代に発生し、経済活動の場として発展したインテリアデザインのあり方は、今、完全に変革したと私も実感しています。現在のインテリアデザインに求められようとしている、Webを中心とした経済活動の中でのリアルなタッチポイントを、飯島さんがどのように作り上げるのか。ささやかな営みを続けているデザイナーの一人として、期待せずにはいられません。

 


飯島さんは時代の先を行くデザイナー
Yuki  [Art Director ]
 飯島直樹氏のデザインする空間は、たとえば〈STONES〉オフィスの内装は、国内外から取り寄せた石材をぜいたくにたっぷりと使って、洞窟のイメージを思わせる光を感じます。ページをめくっていくにつれて、あたかも洞窟の中を探検しているような気分に浸りました。ヨーロッパ的な素材や色がモダンでお洒落でありながら、キッパリと鉄という素材で主張するところが、斬新さと力強さを感じます。
氏が仕事を始められた時代から考えると、その感覚がどこから来るのだろうかと、これほど時代の先を行くデザイナーは、珍しいのではなかろうか。

 

 

 

 

 

 

画像は本から撮影したものです。

 

PMOビル(八重洲通り)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PMOビル(渋谷)

 

 

 

 

 

 

 

工学院大学(新宿)

 

 

 

 

 

 

工学院大学(新宿)

 

STONES(東京オフィス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

STONES(博多オフィス)

 

 

 

 

 

 

 

インタビューページ

 

(本のご購入はこちらから)

アマゾンからも注文できます。


【TOPIC  Ⅱ】よもやま話
ブレイキンと「溶ける機能」——――かたちブックス編集部
今年のパリオリンピックに採用されたブレイキンという、若者の間で人気の新しいダンスをニュースで見ていてふと思ったことは、これはいわば「器官なき身体」(ドゥルーズ、当メルマガ第2号参照)のダンスだなということです。
その動きを見ていると、人間の肉体が胴部から四肢にわたって設置されているいくつかの関節の機能に規制されていることを忘れさせるものがあります。それほどにその演技は柔らかで自在であり、不定形で流動的な動きを見せています。
といっても、関節の機能が消えてなくなったわけでないことは言うまでもありません。関節の機能は厳然と働いているに違いないのですが、そのことを忘れさせてしまうのは、ダンスの振付が関節の「機能を溶かす」ように考案されているからと考えるほかありません。
つまり肉体のポーズや動きを流動的に構成することによって「機能の連結体」としての肉体の存在様式を超えていくイメージを創り出しているわけです。そこにブレイキンというダンスの妙味があるんだな、というふうに高齢者の私は解釈しました。
これはまさに、身体表現における「溶ける機能」であると言えるのではないでしょうか。

 


【TOPIC Ⅲ】
海野次郎さん(水墨作家)のドイツ滞在報告
Youtubeで公開中

今年の5月から6月の間、ドイ ツに滞在して水墨の制作三昧の日々を過ごした海野さん(前号既報)が、帰国して当時を回想しながら報告しています。滞在中の心境が語られています。

 

【TOPIC  Ⅳ】悦ばしきコトノハ
「人間的条件を超越すること、これが哲学の意味である。」(ジル・ドゥルーズ『ベルクソンの哲学』より)
今号のTOPIC Ⅱよもやま話で引き合いに出しているブレイキンを例にすると「人間的条件」とは肉体の動きが関節や筋肉の機能に拘束されているということ。そしてそれを「超越する」とは、肉体を拘束している諸機能をいわば「溶かし」ていくような振付を考え構成することによって、それまでになかった新しいダンスを創造していく、ということになるでしょうか。
哲学の意味というと話は難しくなりますが、「哲学」という言葉に替えてアート、デザイン、宗教などの言葉を代入してみれば、理解のとっかかりがつかめるのではないかと思います。

Sample Content

 


編集後記
かたちブックスめるまが便  第4号
発行メディア:工芸評論「かたち」 https://katachi21.com/
発行サイト:かたちブックス
Copyright(c)Hiroshi Sasayama 2024
本メールの無断複製、転送をお断りします。

バックナンバー
お問合せ:katachibooks@gmail.com
めるまが発行のつどの通知を希望される方は、上記問い合わせメールよりお申し込みください。