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中野みどり[紬織着物]

工芸のアート性、アートの工芸性

 

 

 

                                          

 

 

 

                          

 

 

 

                     

 


 

[論評——布のかたち、身を包むかたち]
 布は広げると平面様の形になるし、動かすと形を変化させて立体的な様相を帯びてきたりします。
風呂敷ならば、広げるとその模様を絵のように見ることができますし、何かモノを包むと立体物になって、それはそれで彫刻作品のように見えたりします。
そのように、布は、平面と立体の間を自由自在に行ったり来たりできることを特徴とした物質といえるでしょう。
 日本の伝統的衣装である着物は、着物としての美しさはもちろんですが、そのディテールに焦点をあてて平面様の状態でのうつくしさを愉しむこともできますし、
人の身を包み、そして人が動くたびにさまざまに形を変える、その時その時の美しさもあります。
平面様において見る場合にはどちらかというと絵を愉しむように見、人の身を包んでいるときには、着物として使われて(用途)いく中に顕現してくる美しさを愉しむことができます。
このように、布はアート的な表現メディアの側面と、用途に対応する工芸的な側面を併せ持っていると言うことができます。
 織物や染色といった技法と絡めて布の美の特徴を挙げるとすれば、織物としては経糸と緯糸の交錯という物理的な成り立ちによる限定性があり、
染色においては、絵のようにブラッシュワークで生地の上に自由に絵の具を置いていくわけにはいかず、
ミクロレベルの繊維と繊維の間に色素を染み込ませていくテクニックを身につけなければいけません。
それら技術的な限定性により、表現・表出されてくるものも一定の限定性を受けます。
しかしこの限定性の中に作り手は美の契機を見出していくことができるのです。なぜかといえば、技術的限定性はモノの成り立ちを語るものでもあり、
その成り立ち方を逆利用(理知的あるいは直観的に)していくことが創作の世界につながっていくのです。
 技術的な限定性の中に合理性を認めてそれに即して作る場合の工芸的な美しさと、限定性の中に創作の契機を見出していくアート性、
工芸とは本来、このような美の両面性を含んでいるものと考えられます。
 さらに素材の観点からいえば、工芸は素材の特徴を生かしていくところに特徴があります。
このこともまた工芸的制作にひとつの拘束性を与えますが、素材を生かすことは自己を超えた世界を開いていくという意義を有します。
それが文字通りに実践できれば、それはひとつの創作的世界を開くことに通じていくという意味で、アート性を獲得します
(“文字通り”と念を押したのは、現実には素材を表現に従わせるような制作が、工芸の世界でもはびこっているからです)。
素材を生かしていく手順としての工芸(拘束)性と、素材の世界を開いていくアート性という両面がここでも認められることになります。
 中野みどりの“草木染紬織の着物”は、以上述べてきた3つの局面(①物質の特性と用途性 ②技術的限定性と逆利用 ③素材的拘束性と超自己性)において、
どこから見ても愉しめるものに作られています。言い換えれば、工芸性とアート性が境界を超えて融合している状態を実現しているということです。

 

[プロフィール]
1977年  宗廣力三(人間国宝 紬縞織・絣織)に師事
1989~96年 日本伝統工芸展、新作展、染織展などに入選
1997年  「地織りの会」主宰(2006年まで)
2000年  『染めと織りと祈り』(立松和平著 アスペクト刊)出版記念展に出品
2000年  栃木県結城紬織物指導所で講演「人は布を織るように生まれてくる」
2003年  NHK BS1の番組「JAPANOLOGY」に出演
2009年 「中野みどりの紬塾」を開設し、以後、毎年開催
2010~16年 武蔵野美術大学工芸工業デザイン科テキスタイルコース 特別講義を行う
2012年  作品集 『樹の滴――染め、織り、着る』 を上梓(染織と生活社刊)
東京、埼玉、京都、名古屋で個展開催

[参考文献]

中野みどり作品集『樹の滴―染め、織り、着る』 染色と生活社刊、

 取り扱い;全国書店、インターネット書店、amazon楽天ブックス等にてご注文いただけます。

 

新かたちノートNo.03 〈特集・染める、織る、そして着るということ〉 2003年6月
かたちの会会誌No.01 〈特集・身を包み身を飾る布の美〉 2008年春
かたちの会会誌No.18 〈布の気韻・ガラスの幻惑〉 2014年秋

[リンク]
櫻工房(中野みどり主宰
中野みどり(紬塾)ブログ