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KATACHI BOOKSメールマガジン3

創刊第3号[2024年7月10日発行]

 

目次
【TOPIC Ⅰ】海野次郎さん(水墨画家)との対談Youtubeで公開中
【TOPIC Ⅱ】柳井嗣雄さん(植物繊維の造形作家)の創作について
【TOPIC Ⅲ】井上まさじさんの絵画  
【TOPIC Ⅳ】ブランクーシの彫刻について 
【TOPIC Ⅴ】よもやま話
  ファッツ・ナヴァロの『Nostalgia』を聴く

 


 


【TOPIC Ⅰ】
海野次郎さん(水墨画家)との対談、Youtubeで公開中

 

4月21日に海野次郎氏の個展会場で対談させてもらった時の記録の一部がYoutubeで公開されています。

 

Youtube[日本の芸術を語る]
「水墨画とはどういう絵画か」
当メルマガ前号では、水墨画における“白”の意味について話しているところを文章で紹介しましたが、Youtubeでは更に、西洋絵画の遠近法と東アジアの遠近法の違いについても語っています。
要約しますと
「西洋絵画の遠近法はいわゆる“だまし絵”の技法として研究され発展してきた。東アジアの遠近法は自然空間の奥行き感の描法として発展した。」
「西洋の遠近法はリアリズムの表現に適用され、東アジアの遠近法は、宇宙論的イメージとしての山水画の表現に適用された。」
といったことが語られています。

 

海野さんは6月中ドイツに滞在してました。送ってくれたメールを紹介します。
デュッセルドルフの近くにあるインゼル・ホンブロイヒ美術館のゲストアトリエに滞在しています。
ここで制作の日々を過ごしています。
寄ってくれる人が水墨、日本画、現代美術などといったジャンルに関係なく、今の絵画として観てくれるのが有り難い。」

 

 


 

 

 

 

 

 

ドイツ滞在中の海野さん

ホンブロイヒ美術館アトリエ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アトリエ敷地の外側の眺め(土地の名はNeuss)

 

 

 

【TOPIC  Ⅱ】
柳井嗣雄さん(植物繊維の造形作家)の創作について 

〈紙神のあそび 朝倉俊輔+柳井嗣雄二人展〉より

photo/Kotaro Suzuki

「カミの声が聞こえてくる方へ」
柳井嗣雄さんは植物繊維(主に麻、楮)を使って空間をインスタレーションする造形作家です。造形のコンセプトを表す基本用語として、もの(存在)、身体、媒介、境界、記憶、リゾームといった言葉が使われます。
 柳井さんの出発は版画表現で、フランスのエッチング作家の工房などで技術を習得してますが、支持体の和紙自体に関心が向いていき、和紙の造形へと転身し、さらに大作化していって、屋内、野外の区別なくインスタレーション表現を確立していきました。その活動は今日もテンションを下げることなく、年間に何度か発表活動を行うなど精力的に展開していってます。
 版画から和紙そのものへと関心が移っていくというところが面白く感じられます。しかも紙漉きの技術で制作されるところのいわゆる“和紙”の制作を超えて、植物繊維の原料的状態へと遡及していき、作品のスケールは巨大化していきました。柳井さんの創作をそういう方向へと導いていった、そのモチベーションというかリビドーはどういうところにあるんだろうかということをある時考えてみました。
 そのときに得られた考えは、「カミの声が聞こえてくる方へ」ということです。版画から和紙そのものへと関心が移ったのは、どこからともなくカミの声が聞こえてきた最初のときではなかったでしょうか。そしてその声が聞こえてくる方へと探索の歩みを進めていった(それとともに声も次第に大きく聞こえてきた)軌跡が、柳井さんの創作世界に他ならないというわけです。

6月21日ー 7月15日 CCAAアートプラザ(東京・四谷)にて

Facebook 会期中のイベントなど詳細が報告されています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


【TOPIC  Ⅲ】
井上まさじさんの絵画

(素材はアクリル絵具)

札幌市に井上まさじという画家がいます。これまで札幌と東京で毎年1回個展を開催してきてます(今年も6月に小金井市の画廊で開催されて、見てきました)が、東京では都心からは少し離れた小さな画廊での開催でなので、その活動はなかなか広く知られていかないようです。しかし私は世界の現代絵画のレベルでもトップクラスの画家であると確信しています。
井上さんの絵画創作の意義をどう説明するかというと、入口(登山口)がいあるのでどこから話せばいいか迷うのですが、たとえば「偶然と必然」という観点からの話があります。
このテーマは、たとえばJ・ポロックのドリッピング絵画を一つの出発点として、偶然的事象を造形要素として取り込んでいく手法の道筋を形成していきますが、井上さんの創作において一つの到達点に至り、そこから新たなステージが予兆されていると見ることができます。
その到達の仕方とはどういうものかと言いますと、言葉で表現するならば「偶然=必然」とでも言い表すほかないような在り方です。そして「偶然=必然」とは、まさに自然界の成り立ちそのものにほかならないですよね。
つまり井上さんの絵画はそれ自体が一つの自然現象として生み出されている、とも言えるわけですが、それを可能にしたのは、「絵を描く」技術としての身体の動きを完璧にコントロールできる(必然を重ねていく)技能の高さと、制作のプロセスに「偶然」を造形要素として組み込んでいく方法論(思考)の巧さということです。
これはほとんど「究極の絵画」を示しているというふうに私には思われます。
(井上まさじ展 2024.June8-16 ギャラリーブロッケン・小金井市)
私が書いた「井上まさじ論」。思いっきり難解に書かせてもらいました。

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【TOPIC  Ⅳ】
ブランクーシの彫刻について
20世紀を代表する彫刻家の一人であるブランクーシ(ルーマニア出身)の展覧会が、東京・京橋のアーティゾン美術館で7月7日まで開催されていましたので、見てきました。
ブランクーシの作品は卵型のオブジェとか、空に向かって突き刺さっていくような垂直の飛翔の形を表したものがよく知られていますが、今回の展覧会では、ブランクーシ自らが撮った写真や16ミリフィルムとかの映像記録に興味を惹かれるところがありました。
ブランクーシはその作風や風貌からして哲学者然としたストイックなイメージがありますが、光をメディアとした写真や動画の記録から推測されるところからは、時々刻々と変幻する現象世界にも大いに造形的関心を向けていたように感じられます。物の形はそれ自体においてその根源的な在り方を示す一方で、光の中にその姿を現すとともに、モノ(作品)を取り囲む現象界の転変をもその表面に映し出して(そのために素材のブロンズの表面を鏡のように磨き込んでいる)、それらを包含する一つの全体世界を提示していくことが彫刻表現という創作的営為であると表明するかのようです。
そういった感想が出てきたときに、私の頭の中を、ジルの本の中で見つけた以下の文章が思い出されてきました。
「…境界を辿り表面を沿うことによってこそ、物体から非物体的なものへ移行するのである。ポール・ヴァレリーには深遠な一言があった。最も深いもの、それは皮膚である、と。」
          (ジル・ドゥルーズ『意味の論理学』より)

 「レダ」  回転する台の上に設置されてますが、その全体が作品。

 

 


【TOPIC  Ⅴ】よもやま話
ファッツ・ナヴァロの『Nostalgia』を聴く
最近、街中を歩いているときやラジオから聞えてくるジャズの音楽に妙に郷愁をそそられています。ジャズは学生時代から還暦を過ぎるあたりまでずうっと聴いてきた音楽のジャンルですが、ここ十数年ほど西洋の古楽の世界に親しんできて、ジャズからは遠ざかっていました。それが今、しみじみと身に沁み込んでくるように聴こえてきて、もう一度ジャズに戻ろうかなと思い始めています。
私は大抵のジャズマンは好きですが、特に愛聴していたジャズマンを挙げておきますと、1930年代のレスター・ヤング(テナー)、ビリー・ホリデー(ヴォーカル)、1940年代のバド・パウエル(ピアノ)、1950年代-60年代のソニー・ロリンズ、ジョン・コルトレーン、エリック・ドルフィ(アルト・サックス、フルート)といったところです。
ジャズから離れている間、私のなかでいささか心残りだったのは、ビバップ時代のチャーリー・パーカー(アルト・サックス)とファッツ・ナヴァロ(トランペット)をあまり聴いてこなかったということです。特にファッツ・ナヴァロが気になっていました。
今後、ジャズの世界に戻るとするならば、パーカーとナヴァロが中心になるかなと思っています。パーカーとナヴァロの偉大さを確認しておきたいという思いです。
ということで、つい最近のことですが、ナヴァロの「Nostalgia」というタイトルのCDを買い求めました。
スバラシイ!! 1947年のクインテットによる演奏で、メンバーはいずれも超一流のジャズメンたちですが、その中に在ってもナヴァロの演奏は一際輝きを放っています。ナヴァロは23歳で夭折した、ジャズ史上最高のトランペッターです。彼の演奏には心を洗われるような一途さがあります。

 

ファッツ・ナヴァロ『Nostalgia』

 

 

 

 

 

このジャケットデザインはレコードの時と同じデザインです。

ジャス喫茶でちょくちょく見てたので、懐かしく感じます。

 


編集後記
かたちブックスめるまが便  創刊 3号
発行メディア:工芸評論「かたち」 https://katachi21.com/
発行サイト:かたちブックス
Copyright(c)Hiroshi Sasayama 2024
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